yippee-ki-yay

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冬が近づいてくると、世間はクリスマスの準備にかかるようだ。ラジオや有線からはクリスマスソングが聞こえはじめ、広告にもちらほらクリスマスが顔を見せるようになる。

ところで、クリスマスを舞台にした映画というと何を思い浮かべるだろうか。「素晴らしき哉、人生!」「34丁目の奇跡」あたりが定番だろうか。アニメなら「東京ゴッドファーザーズ」などはどうだろう。

僕が一番好きなクリスマス映画は「ダイ・ハード」だ。クリスマスにタフガイが悪人を皆殺し。まさに最高の映画だ。ちなみに、特にクリスマスでなくてもいい気もする……のだが、クリスマスでないとあの名シーン

Now I have a machine gun. HO-HO-HO

の印象が薄れてしまうので、やはりクリスマスでいいのだろう。あのシーンだけ切り取ってみると、完全に主人公がサイコな悪役なのが素晴らしい。なんのことやら分からない人は、是非ダイ・ハード(一作目)を観て欲しい。

それはさておき、ダイ・ハードにシリーズを通しての決め台詞があるのをご存知だろうか。

Yippee-ki-yay, motherfucker

というものだ。motherfuckerは、ご存知のように、侮蔑表現の俗語だ。一般的には「クソ野郎」「イカレた奴」などといった感じで訳されることが多い。
問題は、前半のYippee-ki-yayだ。これは一体どういう意味なのか。

まず結論から書いておこう。特に意味らしい意味はない間投語だ。AhとかOhとかと同じである。ただし、カウボーイがいかにも言いそうな掛け声を適当に言ったものなのだ。

実は、Bruce Willisが2015年のインタビューでこの台詞について訊かれた際に

“It was a throwaway, I was just trying to crack up the crew and I never thought it was going to be allowed to stay in the film.”
(何気なく言ってみたのさ、ちょいとスタッフを笑わせようと思ってね。まさかそのまま映画に使われるとは思ってもなかったよ)

といった回答をしていたらしい。(訳は僕が適当につけたものなので注意)
つまり、元々がその場限りのつもりのジョークだったわけだ。

このジョークを理解するには、少し台詞をさかのぼる必要がある。

Hans Gruber: [on the radio] Mr. Mystery Guest? Are you still there?
John McClane: Yeah, I’m still here. Unless you wanna open the front door for me.
Hans Gruber: Uh, no, I’m afraid not. But, you have me at a loss. You know my name but who are you? Just another American who saw too many movies as a child? Another orphan of a bankrupt culture who thinks he’s John Wayne? Rambo? Marshal Dillon?
John McClane: Was always kinda partial to Roy Rogers actually. I really like those sequined shirts.
Hans Gruber: Do you really think you have a chance against us, Mr. Cowboy?
John McClane: Yippee-ki-yay, motherfucker.

出典:IMDb

この映画における敵の親玉、Hans GruberとJohn McClaneが無線を通じて話をするシーンだ。念のために以下適当な訳を書いておく。

Hans Gruber: [on the radio] ミスター・謎のお客さん?まだそこにいるのかな?
John McClane: ああ、まだここにいるぜ。お前が玄関のドアを開けてくれるまではな。
Hans Gruber: ああ、悪いがそれはできないな。しかし、君には少し困惑してるんだよ。僕の名前を知ってるようだが、一体君は何者なのかね?子供の頃に映画を観すぎた、よくいるアメリカ人?今は無き文化の孤児ってわけかい、自分をジョン・ウェインだとかランボーだとかマーシャル・ディロンだとか思い込んでいる類の。
John McClane: 実はずっとロイ・ロジャースの大ファンでね。あのキラキラのシャツがたまらなく好きなのさ。
Hans Gruber: 我々に勝てるチャンスがあると思ってるのかな、ミスター・カウボーイ?
John McClane: Yippee-ki-yay, motherfucker.

いろいろな人名が出てくるが、ジョン・ウェイン、マーシャル・ディロン、ロイ・ロジャースの3人は、いずれも西部劇の大スターだ。だからHans Gruberはミスター・カウボーイと揶揄したわけだ。

ここで、Bruce Willisは気の利いたアドリブをしてやれと思ったのだろう、カウボーイに掛けて、Yippee-ki-yay, motherfuckerと返したわけだ。この台詞の面白味は、そのカウボーイに掛けた部分もさることながら、特に昔のスターは絶対口にしなかっただろう、motherfuckerというとんでもない言葉を後に続けたギャップにもある。

では、なぜYippee-ki-yayというのがカウボーイっぽいのか。

残念ながら、どうやらはっきりとした理由はないようだ。
強いて言えば1900年台前半、ラジオや映画などによって消費の対象としてのカウボーイ文化(西部劇やカントリーソングなど)が広まる中、ある種の声の出し方が、カウボーイっぽいものとして大衆に受け入れられるようになったから、としか言いようがないようなのだ。
西部劇などで馬に乗る際”YeeHaw”などと叫んでいることがあるが、あれも、そう叫んでおいた方がカウボーイっぽいからそう言ってるだけなのだ。カウボーイが大衆文化となる過程で起こった記号化なのだろう。
日本で例えれば、「ござる」といえば時代劇っぽいようなもので、実際にカウボーイがそう言っていたかどうかは関係ない。それっぽく感じるのが重要なのだ。

では、実際にそんなお約束はあったのだろうか。そのヒントが、1936年の映画”Rhythm on the Range”(愉快なリズム)の中でBing Crosbyが歌った”I’m an Old Cowhand“にある。

I’m an old cowhand from the Rio Grande
But my legs ain’t bowed and my cheeks ain’t tan
I’m a cowboy who never saw a cow
Never roped a steer ‘cause I don’t know how
Sure ain’t a fixing to start in now
Oh, yippie yi yo kayah, yippie yi yo kayah

歌詞を見れば分かるように、カウボーイの歌ではない。なんちゃってカウボーイの歌である。二番の歌詞では立つ(stand)のを覚えるより先に乗る(ride)のを覚えたとか歌うが、乗るのは馬ではなくFord V8の車だったりする。要するにコミックソングなのだ。

さて、この歌の最後の一節を見て欲しい。
Oh, yippie yi yo kayah
これが、おそらくは今回問題にしているYippee-ki-yayの直接の元ネタと思われるが、カウボーイっぽさを示す記号として歌われているのは明らかだ。

さらにさかのぼって1910年の”Git Along, Little Dogies”というカントリーソングには
Whoopi-ti-yi-yo
という呼び声の歌詞がある。なんとなく似たパターンがあるのが感じられるだろうか?

ちなみにこの2つの歌は、両方ともRoy Rogersによってカバーもされている。

具体的にはこういった歌や、映画での掛け声などからカウボーイを表す記号としての掛け声が形作られていったのだろう。1960~1970年台あたりまでは、TVでも西部劇の再放送が盛んに流されていた。Bruce Willisもそういったものに慣れ親しんでいたに違いない。
そうして、アドリブで(うろ覚えの中)口をついて出たのがYippee-ki-yayというそれっぽい掛け声だった。そんなふとした台詞が、結果的に人々の心を掴む名台詞になったというのが、面白いところだ。

今回のまとめ:
好きなクリスマス映画第一位はダイ・ハード、次点はグレムリン。

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