Toast to the toast

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Android系のスマートフォンを使用している方は、画面の下の方にピコっと出てきてスッと消えていく、このようなものを見たことがあると思う。

主にちょっとした通知に使用される「コレ」には、実はちゃんとした名前がある。
Androidのアプリ開発をしたことがある人ならみんな知っていると思われるので、豆知識というほどのものでもないが、トースト(toast)という正式名称なのである。

……では何故これがトーストと呼ばれるのか?
それは、今回の本題とは関係の無いお楽しみということで、この記事の最後に答えを紹介することにしよう。

さて、toastという単語には他にも様々な意味がある。
上で紹介したもの(まだ辞書に載るには至っていないが)を仮に最も新しい意味の用法だとすると、次に新しいものはスラングで「おしまい・詰んでいる・ダメ」という意味のものだ。

その初出には諸説あるようだが、映画「ゴーストバスターズ」のセリフがきっかけではないかと言われている。

All right, this chick is toast!

Ghostbusters (1984)

このセリフは、もともと台本では “I’m gonna turn this guy into toast.” というものだったのを、ビル・マーレイがアドリブで変えたものらしい。このセリフを喋るピーターというキャラクターは皮肉屋で下品という性格でもあるので、いい方向で効いたアドリブのように感じられる。

ちなみにこのすぐ後、発射したビームを避けてみせた女(ゴーザの化身)に対し、”Nimble little minx, isn’t she?” というイカしたセリフも吐いている。一度は使ってみたいセリフだ。

toastには、他にはもちろん「こんがりと焼く」という意味、そこから派生した「トースト(パンを焼いたもの)」という意味もあるわけだが、それに加えて何故か「乾杯」「乾杯をする」という意味がある。

これは一体何故だろうか?……というのが、今回の主題である。

実は、その語源に関する古い記事が存在する。
18世紀初頭に発行された雑誌(というかペーパー)”The Tatler”24号に掲載されたものだ。”The Tatler”はコラムを中心とした、当時としては斬新だった構成をとっており、後世の新聞・雑誌に大きな影響を残したと言われている。
ジャーナル界のモンティ・パイソンみたいなものだろうか……え……違う……?

その記事に曰く、

……多くの前世代の知識人たちは、この単語の意味はチャールズ2世の治世、バースの町(註:Bath – ローマ時代からの温泉で有名なことから名付けられた)で起きたある出来事から生まれたとしている。ある祝日に、当時の有名な美女がクロス・バス(地名)にいたのだが、彼女を慕う大勢の人々の一人が、その美女が立っていた湯をグラスに取り、皆に彼女の健康を祝って飲んだ。その場にいたある酔っ払いの男が飛び入りし、酒は嫌いだがトーストは貰おうと言い出した。彼の意見は皆に反対されたわけだが、この気まぐれが、それ以来トーストと呼ばれることになる、我々が酒の席で言及する女性に与えられる現在の栄誉の基礎となった。

The Tatler (No.24, 1709)

敢えて原文にそれなりに忠実に訳してみたが、実のところこの文章だけでは、イマイチ意味が分からないと思う。これを読み解くには、もう一つ別の情報が必要だからだ。

それは、当時トースト、つまりパンを焼いたもの(現在我々が思い浮かべるトーストとは異なり、かなり堅焼きのものらしいが)を酒に入れて飲むのが一般的だったということである。

それを踏まえて読み解くと、こういうことになる。

ある男が、美女の健康を祝って乾杯をした。その際に、酒ではなく美女が入っていた温泉の湯を酒にみたててグラスに入れて飲んだ。

それを見ていた酔っ払いは、酒(温泉の湯)はいらないが、その中に入っているトースト(美女)をいただくことにしようと冗談を言ったわけだ。要するに親父ギャグをかましたわけである。ガハハという笑い声まで聞こえてきそうだ。

それを聴いた他の人々は、いやそんなわけにはいかんやろとツッコミを入れた。まぁ、そういうベタな情景なのだ。この文章が描写しているのは。

で、それ以来、その美女はトーストと呼ばれることになり、彼女の健康を祝って乾杯をしたことから、いまでも乾杯のときはトーストと声を上げる風習が今も生き残っているというわけなのだ。

……いやいやいや、ホントに?

ここに、同じく”The Tatler”から、少し後の31号に掲載された記事がある。

この記事に紹介されているのは、toastのもう一つの用法、つまり「(有名な)美女」後に転じて「人気者・有名人」という意味に関する話だ。
ここには簡単に、最近頓知の効いた人が言い始めたことで、酒を飲む時グラスに入れたパンに見立ててそう呼ぶようになったと書かれている。

いや、さっきのバースの町の話はどこにいったんよ……絶対作り話でしょ、あれ。

ところで、当然浮かぶ疑問として、そもそもなぜ酒にトーストを入れて飲んだのだろうか?それが何故美女に例えられることになったのか?

実はその習慣は、古くはローマ時代まで遡ることができるらしい。

トーストを中に入れる理由は2つあったとされている。
ひとつは、酒の中に入っている不純物を吸着させ、雑味をなくすため。
そしてもうひとつは、トーストにスパイス類をつけておき、その風味を酒に移らせるためだというのだ。

要するに、現代ほど酒が洗練されておらず、美味しくなかったから……ということになるのだろうか。

カクテルの語源を紹介したときにも述べたが、19世紀くらいまでは酒にスパイスを入れて飲むのは、ごく一般的なことだった。そのまま混ぜて飲む場合もあれば、トーストを用いて風味付けを行いつつ雑味を取り除く効果を期待する伝統的な方法もあった。

つまり、トーストとは、酒にスパイスを効かせるものという意味である。これが、後に酒宴の席において美女を指す比喩として機能するのは、ごく自然な用法のように思われる。

かくして、美女を指すことになったtoastは、今度は美女に対して乾杯をする際の掛け声となり、さらには乾杯そのものを意味する単語となった……というわけだ。

といったところで、最初に出した問題の解答を。何故Androidで通知のことをtoastと呼ぶのか?

答えは、ポンと出てくる、つまりpop upするから、とのことだ。

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