江戸の地口とcockney rhyming slang

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先日、カミさんと話をしている時に「恐れ入谷の鬼子母神」と言ってみたら、見事に通じなかった。おや?と思い、「その手は桑名の焼き蛤」を知っているかどうかも聞いてみたが、知らないようであった。

カミさんはカミさんで、普段「結構毛だらけ猫灰だらけ」などと言っていることがあるので、こういった言葉を全く知らないというわけではないようだ。……というより、「男はつらいよ」を観たことはあるということかもしれないが。
ちなみに、「おどろ木桃の木山椒の木」「あたり前田のクラッカー」あたりは知っていたが、「びっくり下谷の広徳寺」「情け有馬の水天宮」は知らないようであった。

さて、こういった言葉を地口と呼ぶ。特に知られているのが先程いくつか挙げた江戸の地口で、興味のある方は調べてみると面白い。

そして、英語にも似たようなものがある。
例えば、”See you later, alligator”というのが有名だろう。言われた方は”In a while, crocodile(もしくはAfter a while, crocodile)”と返事をする。
SFファンの方ならご存知だろう、ハイペリオンにも出てくるrhyming phraseである。1950年代に当時の若者の間で広まったフレーズらしい。
念の為に解説しておくと(実際に声に出して読んでもらえればすぐ分かるだろうけど)、laterとalligator、whileとcrocodileが韻を踏んでいる(rhyming)わけだ。

この手のrhymingを用いた言葉の、ある意味究極とも呼べるものが、cockney rhyming slang(以下CRSと省略する)―その名の通り、Londonのcockneyを起源とする俗語である。

(おそらく一番有名な)例を挙げよう。
CRSにおいてapples(リンゴ)は、stairs(階段)という意味になることがある。例えば、”Go up the apples.”という文は、”Go up the stairs.”という意味になる。
applesとstairsって、全然韻を踏んでなくね?と思うかもしれないが、実は間にapple and pears(リンゴと洋ナシ)という洒落が挟まっている。
stairsがapples and pears(stairsとpearsが韻を踏んでいる)に変化し、さらにpearsが落ちてapplesだけになった、というわけだ。さっきの例でいうと、”Go up the apples and pears.”という言い方も可能である。

最初に紹介した地口に例えて言うならば、「その手は食わないよ」という言い方が、「その手は桑名の焼き蛤だな」を経て、最終的に「そいつは焼き蛤だな」という言い方になる、といった感じだろうか。

“We’re in Barney. “
(一同がキョトンとするのを見て言い直す)
“Barney Rubble. Trouble!”

Ocean’s Eleven (2001)

映画「オーシャンズ11」には、CRSを含むコックニー訛りの英語を使うという設定の、 Don Cheadle演じる爆破のスペシャリストが登場する。上記の台詞もCRSの一例だが、trouble → Barney Rubble → Barneyという変化になっている。Barney Rubbleは、フリントストーンに登場するキャラクターの名前である。
残念ながら、Don Cheadleによるコックニー訛りの再現自体は酷いものだったようで、例えば“worst cockney accents in film”などと検索してみると、見事にランクインしている(色々調べてみたところ、不動の一位はMary PoppinsのDick Van Dykeのようだった)。
ちなみに、上記の日本語字幕は(手持ちのBlu-rayでは)「寒いトラ」→「トラブル」という訳になっており、翻訳者の苦労が忍ばれる。

対して、これぞ本場のCRSというのを映画上で再現したシーンがあるのが、“Lock, Stock and Two Smoking Barrels”だ。この映画は、当ブログでも“lock, stock and barrel”の中で紹介したことがある。

あまりに本格的なために、一般的なネイティブの英語話者でも全く意味が分からないシーンとなっており、なんと英語に英語の翻訳字幕が付いていたらしい(残念ながら手持ちのBlu-rayにはついていなかった)。
日本語の吹き替えは直訳となっており、おそらく原作が意図していたように、普通に聞いただけでは全く意味がわからなくなっている。字幕の方では、意味を踏まえた翻訳がされていたものの、これだとこのシーンの面白味は半減してしまうので、難しいところではある。

NETFLIXによる解説動画があったので、リンクを張っておく。
Lock, Stock and Two Smoking Barrels | Rhyming Slang Translator | Netflix

また、このシーンとCRSの細かな解説については、ETC英会話の映画 『Lock Stock And Two Smoking Barrels』でCockney Rhyming Slangというページがあったので、併せて紹介しておこう。
こちらでは、CRSは犯罪者の隠語が発祥という説を紹介しているが、商売人たちの隠語が発祥という説もあるらしい。いずれにせよ、外部の人間には意味が分からないようにするために用い始めた、という説が有力なようだ。

さらに興味のある人は、COCKNEY RHYMING SLANG FROM LONDONを見てみるといい。

さて、数あるCRSの中でも極めつけが、Arisだろう。「お尻」を意味する。
“arse”(お尻)→”bottle and glass”(glassとarseが韻を踏んでいる)→”bottle”→”Aristotle”(アリストテレス、bottleと韻を踏んでいる)→省略されて”Aris”という成り立ちらしい。

いやはや、ここまでくるとなんというか、こいつは鬼子母神だねぇ。

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