nap or nothing

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前回の記事で、nap of the earth(匍匐飛行)という用語を紹介したので、今回はnap繋がりの小ネタを。

napという単語は、一般的には、短めの睡眠を取る、つまりは昼寝する・まどろむという意味で使われる。語源は、中英語のhnappianで、さらに遡るとゲルマン祖語由来ではないかとされている。

また、nap of the earthの元でもある、ベルベットやタオルといった布地の表面の立っている繊維(けば)という意味もある。こちらは、中期オランダ語のnoppeを語源とする。

すこし珍しい用法としては、掴む、奪い取るといった意味もある。こちらは、はっきりとは分かっていないようだが、ゲルマン祖語由来で、古スウェーデン語のnappa(つまむ・引き抜く)と同語源ではないかと考えられているようだ。
ちなみに、kidnap(誘拐)という単語は、この用法から来ているという説が有力らしい。

さて、今回紹介する”nap or nothing”は、乾坤一擲とか、イチかバチかと訳されることが多いが、要するにall or nothingと同じ意味のフレーズだ。
では、このnapは、どういった意味から派生したのかというと……実は上記のどれでもなかったりする。このnapは、元を辿れば、フランス皇帝Napoleon(一世)のnapなのだ。

といっても、人物としてのナポレオンが直接の由来というわけでは無い。
カードゲーム(トランプ)Napoleonの用語が由来なのだ。

あートランプのナポレオン、遊んだことある~……と思った人も多いだろう。が、実は日本で遊ばれているナポレオンは、本家イギリスのNapoleonのルールとは全然違う。一応簡単な流れを後述するが、詳細を知りたい方は、wikipediaのナポレオン (イギリスのトランプゲーム)の項目を参照してみてほしい。

さて、イギリスにおけるNapoleonは、3~7人で遊ばれる、個人戦の、極めてスタンダードなトリックテイキングゲームで、実際にはNapoleonという正式の名前ではなく、napと省略して呼ばれることが多いようだ。

まず、各プレイヤーに5枚の手札が配られる。各プレイヤーは手札が配られた手札を見て、何回勝負に勝てるのかの競り(bidding)を行う。競りが終わると、一番大きな数を宣言したプレイヤー vs その他のプレイヤーという図式になり、一枚ずつカードを出し合う勝負(trick)が5回行われる。

宣言した勝利数を達成できた場合、達成したプレイヤーは、宣言していた数(勝利した数ではないので注意)のチップを他のプレイヤー全員から獲得する。失敗した場合は、逆に宣言していた数分のチップを、全員に支払うことになる。

細かなルールはさておき、以上がおおまかな流れである。

さて、全部で5回の勝負が行われるということは、競りの際に宣言できる最大の勝利数は5ということになる。すなわち、全てのトリックを獲得するという宣言だ。
実は、この場合だけ点数の計算が通常の倍の10点になる。そして、その宣言のことを、特別にNapoleon(nap)と呼ぶ。

つまり、Napoleon(nap)を宣言した場合、 全てのトリックで勝利すれば、全員から10枚ずつチップを獲得できるが、一度でも負ければ全員に10枚のチップを支払う羽目になる。

まさにイチかバチかの宣言である。そしてこれこそが、nap or nothingの語源というわけだ。

同じ流れで、to go nap (on something)で、全てを賭けるという意味になる。
このフレーズは、さらに派生して、何かを好む、夢中になるといった意味もあるらしい(こちらはオーストラリアで、主に否定形で使用されるとのこと)。
(a) nap handなんて表現もある。これは、napを取れる手札―つまり、チャンスとか好機といった意味になる。

今回は、以上。

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