明日(あした)、明後日(あさって)、明々後日(しあさって)の次は、多くの地域では弥の明後日(やのあさって)というらしい。多くの地域では、と書いたのは、実は「しあさって」以降に関しては、地域によっていろいろと違いがあるらしいからだ。Wikipediaの弥の明後日の項目を見るとそのあたりのことが書いてある。
実のところ、東日本ではそもそも明後日の次の日を「やのあさって」と呼んでおり、西日本では「しあさって」が使われていたのだが、混濁が起こった結果、現在のように「あさって」→「しあさって」→「やのあさって」という順番に落ち着くところが増えてきた、というのが真相のようだ。しかし、そのあたりの細かな話は、今回の本題(そんなものあったのか?)からは外れるので割愛する。
さて、 そのWikipediaの項目の中に、弥の明後日(今日から4日後)のことを五明後日(ごあさって)とも言う、と書いてある。物の本によると、この「ごあさって」という言い方は関西以西のものらしい。
僕は大阪・神戸・京都を行ったり来たりしていた関西方面出身だ(もっとも、生まれは熊本らしいのだが、全く何も覚えていない)。だからだろうか、「ごあさって」という言葉は聞いたことがあるものの、「やのあさって」という言葉には馴染みがなかった。そういえば「ししあさって」という言い方も聞いたことがある。
この五明後日という言葉だが、実際の会話の中では使ったことがない。例えば「じゃあ、五明後日の帰りにモンテ(モンテカルロ―梅田にある有名なゲームセンターのこと)で待ち合わせな」などと話したことはない、という意味だ。
これはたぶん、弥の明後日という言葉の地域の人も似たようなものだと思う。知識として知ってはいても、実際には使用しない。そもそも「五明後日」だとか「弥の明後日」だとか言われても、ピンと来ない。そんなに先なら、普通は日付とか曜日で話をするだろう。
というより、実際のところ、若い頃には基本的には「五明後日」という言葉は冗談だと思っていた。つまり、「五明後日」にあたる言葉は本来存在しないものである、と。そうすると、どうなるか。
「なあなあ、あさっての次の日はなんて言う?」
「しあさってやろ」
「そしたら、その次の日は?」
「えー、聞いたこと無いなぁ、なんやろ……」
「し(四)あさっての次なんやから、ご(五)あさってに決まってるやん」
(観客の笑い声)
と、まあこんな感じである。
ところが、辞書を引いてみると、五明後日は広辞苑にも掲載されているれっきとした言葉なのであった。とはいえ、日本の方言地図(徳川宗賢、中公新書、1979年)にこのあたりの話が収録されているのだが、五明後日に関しては、しあさっての「し」を「四」と解釈したのであろうと書かれていたりするあたり、やっぱり洒落みたいなものだよなぁ、と。
誰かが(同時多発的に)冗談半分で適当に言い出したものが、方言化してしまったのでは無いだろうか。なんて。
ところで、英語にも似たような成り立ちの言葉がある。
polyominoと呼ばれる、正方形を組み合わせて作成された図形を表す言葉がそれだ。
例えば、ゲームのテトリスを思い浮かべてほしい。テトリスで上から落ちてくるブロックは、全て正方形4つが接続された形となっている。それらは、tetrominoと呼ばれる。
正方形2つをくっつけた図形―これは一種類しかない―をdominoと呼び、正方形3つから成る図形―真っ直ぐなものとL字型のものの二種類―をtromino、以下tetromino, pentomino, hexomino…という風に続き、それらの総称をpolyominoと呼ぶ。
さて、これらはdi, tri, tetri, pentiといった、ギリシャ語由来の倍数接頭辞を持つ単語の構造となっている。
似たような単語としては、trigon, tetragon, pentagon, hexagon…というのがある(それぞれ三角形、四角形、五角形、六角形)。tri(3)-gon(角)というわけだ。ちなみに、コンピュータ・グラフィックでよく出てくる「ポリゴン」は、poly(多)-gon(角)ということになる。
monochrome, dichrome, trichrome…なんてのもある。このうち、モノクロームは日本語にもなっていたりするが、mono(1)-chrome(色)という作りになっている。
じゃあ、trominoは、tr(i)(3)-omino(正方形)って構造なんだろうと思うかもしれないが、それが違うのだ。-ominoにはそんな意味は無い。
まず、正方形を2つ組み合わせた形のことを、dominoと呼ぶようになった。
これは、実はドミノ牌の形に由来するものであって、ギリシャ語由来ではない。いわば、ドミノというゲームの名前を拝借したわけだ。
で、domino(正方形を”2つ”組み合わせた形)は偶然”d”から始まっていたので、ギリシャ語由来の接頭辞風にこれを取り扱い、正方形を組み合わせてできる形を、tromino, tetrominoといった風に呼ぶことにしたのである。
これはある意味、「しあさって」「ごあさって」の構造と同じではないだろうか?
元の(ゲームとしての)dominoの由来は、どうもはっきりしないらしい。フランス語のdominoと呼ばれる、聖職者が身につけるケープが元ではないかという説が有力らしい(ちなみにdominoそのものの語源は、ラテン語のdominus、すなわち「主」だ)。
黒地に白で作られることが多かったドミノ牌が、surplice(白い短衣)の上にdomino(黒いケープ)をかぶった姿を連想させた云々。いや、見えるかなぁ……と疑問に思わなくもない。
今回は、以上。以下余談。
ところで、日本でドミノといえば、ほぼドミノ倒しのことを指す現状はいささか悲しいものがある。本来は、ドミノ牌を使って行われるゲームの総称であるはずなのに。
NPO法人日本ドミノ協会なる団体があるようなので、サイトを見に行ってみたのだが、驚いたことに「ドミノ倒しで子どもの豊かな成長に寄与する団体」らしく、ドミノのゲームのルールなどには全く触れられていない。
さすがにドミノ協会を名乗っておきながら、いかがなものか。せめて少しぐらい紹介しててくれてもいいんじゃないかなーと思う。
そんなわけで、そのうち当サイトで、遊びとしてのドミノを紹介するかもしれない。