jackpotの語源

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jackpot justiceという言葉がある。

ジャックポット・ジャスティス!檜山修之に必殺技として叫んでもらいたい響きの言葉だ。ジャスティスとかついてるし、なんかこう、正義の鉄槌的な?

……と思われた方もいるかもしれないが、この言葉におけるjusticeとは、正義という意味ではなく、裁判のこと。jackpot、つまりギャンブルでの大当たりを狙うような一攫千金の裁判という意味になる。

具体的には、大企業を相手に訴訟を起こし、懲罰的賠償制度を利用した巨額の賠償金をせしめるような判決を狙う、ということ。
内容からも想像できると思うが、決してポジティブな意味ではなく、どちらかというと悪徳弁護士だとかを想起させるようなネガティブな意味合いの言葉だ。

ところで、このjackpotという言葉は、なぜ大当たりという意味になったのか。
jack+potという構造だとしても、jackって何?potって何?という不思議な単語である。
結論から言うと、この言葉の起源はポーカーにある。1800年台後半にドローポーカーのルールが成立するのだが、そのバリアント(任意に採用できる追加ルール)の一つがjackpotなのだ。

まず、ポット(pot)とは毎回のゲームの賭け金を出すテーブル中央寄りのスペース、あるいは賭け金そのもののことを指す。これはポーカーの基本用語なので、ご存知のかたも多いだろう。

さて、Wikipediaのポーカー(日本語)のなかに、ジャックポットについて触れられた項目がある。そこには、

毎回のゲームでポットに集められるチップの中から、一定額を別枠として集めておき、集まったチップをジャックのフォー・オブ・ア・カインド以上の手を完成させたプレーヤーが獲得するというルールが語源。

とある(2018年12月現在)が、これは明確な誤り。そういった種類のジャックポットのルール自体は存在するが、それが起源というわけではない。

ちなみに、ジャックポット 語源と検索しても、このあたりの語源・ルールをきちんと解説しているところは、残念ながら見当たらなかった。そこで、この記事できちんとした、そして絶対役に立たないであろう、細かな解説をしてみようと思う。

“pass the buck”の記事でも紹介した最も原始的なポーカー、後にストレートポーカーと呼ばれるものに、実はjackpotの原型と思しきルールが存在する。
それは、ベッティングの際に全員がパスをした場合、今出ているante(ゲーム開始時に支払われる参加料)に加えて全員が追加のanteを出し、カードを配り直してやり直しになる、というものだ。

具体的な例(buckを使用しない、全員がanteを出すやり方のルールの場合)を示す。

A(ディーラー)、B、C、Dの4人でプレイしており、anteはチップ1枚だとする。全員がanteのチップ1枚を出し(potの合計は4枚)、Aによってカードが配られる。ベッティングはBから開始されるが、B、C、D、Aの全員がパスをしたとする。(ストレートポーカーでは、BCDのパスの後でAがベットした場合、またBCDはベットに参加することができるため、全員がパスすることがあり得る。これは現在のポーカーの一般的なルールと異なる)
その時、配られたカードは捨てられ、前に出ていたanteはそのままにして、全員がanteを1枚ずつ追加で出し(potの合計はチップ8枚となる)、Bを新たなディーラーとして、改めてカードが全員に配られ、ベッティングが開始される。これをdouble-headerと呼ぶ。
もしdouble-headerでも全員がパスをしたときは、また同じようにanteが追加され、新たな手札が配られる。これはtriple-headerと呼ぶ。以下、誰かがベットを行うまで同じ手順が繰り返される。

つまり、まとめて簡単に言うと、全員がパスをしたゲームは引き分けとなり、前の賭け金はそのまま、さらに賭け金が追加されて次のゲームが行われる、といったルールがあった。

さて、ドローポーカーが発明され、ルールが統一されていき、競技性が重要視されていく中、上記のルールは基本ルールから外れていくのだが、ある条件を追加した上で、ギャンブル性を高めるバリアントルールとして、生き残った。
その条件とは、ストレートポーカーでいうdouble-header以降に関しては、配られた手札がJackのペア以上のプレイヤーでなければベットを開始することが出来ない、というものだ。これこそが、jackpot(当初はjack potと記されている)の起源だ。

具体的に例を挙げよう。1887年のJohn W. Kellerによる”The Game of Draw Poker”におけるルールで話を進める。

A(ディーラー)、B、C、Dの4人でゲームが行われる。仮にanteはチップ2枚、Jack Potへの追加の賭け金(feed)はチップ1枚と決めたする。
Bがblind(一人が代表して出すante)を出し(potは2枚となる)、Aによってカードが配られる。ベッティングにおいて、C、D、Aは勝負できない手札と判断し、勝負を降りた。通常のルールならばBが自分の出したante分(2枚)を勝って終了となる。
しかし、Jack Potのルールが採用されていた場合、全員がfeed分のチップ1枚を出して(potの合計は6枚となる)、Aによりカードが配りなおされる。その後のベッティングはBから始まるのだが、ベットを開始するためには、配られた手札がJackのペア以上の役を持っている必要がある。
ここでは、仮に誰もJackのペア以上の役を持っていなかったとする。B、C、D、Aの順にパスが宣言され、ゲームが成立しなかったので、さらに全員により追加のfeedが出される(potの合計は10枚となる)。
Aによってまたカードが配られる。ベッティングが開始され、Bはパスを宣言。さて、ここでCの手札に8のカードが3枚来ていたとする。これはスリー・オブ・ア・カインドとなり、Jackのペアを上回る手札なので、Cはベットを宣言する(別にパスをしても構わない)。これをJack Potをopenする、という。
ここからは、改めてCをスタートとした通常のベッティングとなる。Cは通常のルールに従い、anteの2倍の4枚をベット。以降、D、A、Bの順に進行していく。
後は通常のドローポーカーのルールで(ただし、Cが最初のベットを行うプレイヤーとして)進行する。1回目のベットが終われば、カードの交換が行われ、2回目のベットが行われ、手札を公開し、決着となる。

Jackのペア以上が手札として配られる確率は約20%。仮に4人でのプレイの場合は、約40%の確率で、誰もjackpotをopenできないことになる。仮にそれが3回続けば、jackpotには4回×4人分のfeedが入った状態となるわけだ。
このように、feedの額の設定にもよるが、時にかなり大きな金額がjackpotに入ることになる。なかなかのギャンブル性だ。
ちなみに、”The Game of Draw Poker”ではprogressive jackpotというルールも紹介されていて、これはjackpotが開始した2巡目以降は、openできる手札がJackのペア以上→Queenのペア以上→Kingのペア以上→Aのペア以上とどんどん厳しくなっていくというものだ。なんと恐ろしい。

さて、一般的には、Jackのペア以上で開けられるpotなのでjack potと呼ばれた……という説明になるのだが、実際のところ、jack potの名前が先に決まり、語呂合わせでJackのペア以上~というルールにしたという可能性もあるんじゃないか、と考えている。
jackという単語は非常に多様な意味合いを持った単語で、いろいろなスラングに登場するからだ。それこそ”money”という意味を持つこともある。
いずれにせよ、ポーカーのルールが、現在の意味に繋がる単語の起源だというのは、ほぼ間違いのない情報と言っていいと思う。

さて、jackpotという言葉は1870年前後のポーカーのルールから登場したとして、現在のような「大当たり」という意味になったのは、実はかなり後のことだ。Online Etymology Dictionaryのjackpotの項目によると、

also jack-pot, “big prize,” 1944, from slot machine sense (1932)

とある。

ここにslot machine senseという記述があるが、実際にはThe Mills Novelty Companyにより、1916年にjackpotの仕組みがスロットマシーンに取り入れられたのが最初らしい。特定の組み合わせが出ると中に入っているコインが全部出てくる、という分かりやすい大当たりの仕組みだったようだ。
ちなみに、このThe Mills Novelty Companyはヴァイオリンの自動演奏機”Violano Virtuoso”のメーカーとしても知られている。現存している会社なのだが、現在は機械の製造はしていないようだ。

まとめ。
jackpotという単語はドローポーカーのバリアントルールで使われたjack potという用語が大元。時に大金の掛かった勝負となるjackpotを、後にスロットマシーンメーカーが大当たりという意味で使用するようになり、これが広まって、現在の用法となった。

相変わらず実は簡単な内容に、役に立たない知識を水増しした記事となったような……。ま、いっか。

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