真夏の夜の夢における、apprehendとcomprehend

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趣味、というか教養の一環としてプログラミングで遊ぶことがあるのだが(たまに仕事の役に立つことも無くはない)、最近遅ればせながら、Pythonを触ってみている。ちなみにきっかけは、Humble BundleでのPython入門書のまとめ買いである。
Pythonでは、リストを作成する際にlist comprehension(リスト内包表記)という記法が用意されている。僕自身はこの記法に触れるのは初めてだったのだが、使ってみるとなかなか便利である。ちなみに、Haskellなどでも採用されている記法らしい。

このlist comprehensionの、comprehensionという単語を見てふと思い出したのが、今回の話題、つまりapprehendとcomprehendという2つの単語に関するちょっとした話である。

そもそも見た目からしてよく似た単語である。そして、見た目通り語源も近い。
apprehendはad(toward / to)+prehend(grasp / sieze)であるし、comprehendはcon(together / wholly)+prehendという構造になっている。

さて、この2つの単語だが、似たような意味合いを持つことがある。「理解する」という意味が、それだ。同義語辞書を引くと、comprehendとapprehendの両方に”understand”が載せられていることが多い。

実は、この2つの「理解する」には、違いがある。
apprehendは、「そこに何かがあることが分かる、気づく」という意味であり、comprehendは、「理由、背景なども含めて全体をきちんと理解する」という意味となる。(言われてみれば確かに、apprehendをlexico.comで引いてみると、Understand or perceiveと書いてある)

僕がそれを知ったのは、シェイクスピアの「真夏の夜の夢(夏の夜の夢)」第5幕第1場に出てくる、シーシアス(テセウス)の台詞である。

Lovers and madmen have such seething brains,
Such shaping fantasies, that apprehend
More than cool reason ever comprehends.
(中略)
Such tricks hath strong imagination,
That if it would but apprehend some joy,
It comprehends some bringer of that joy;
Or in the night, imagining some fear,
How easy is a bush supposed a bear!

A Midsummer Night’s Dream (Act 5 Scene 1), William Shakespeare

適当な訳は以下の通り。
恋人や狂人たちは、そんな煮えたぎる脳やら、はっきり見える幻想をもっているので、冷静な理性でもって理解する(comprehend)以上のものを見て(apprehend)しまうのだ。
(中略)
そうした幻想は、非常に強い想像力を持っており、もしちょっとした楽しいことを捉えた(apprehend)ならば、その楽しみの源泉をも見出して(comprehend)しまう。あるいは、夜に多少の恐怖を想像したとき、茂みに熊の姿を見てしまうことのなんと容易なことか!

「いいことがあったのは神様のおかげ」とか、あるいはもっと俗な話なら、「あのコンビニの可愛い店員が、お釣りを渡す時に手を握ってくれた。僕に気があるに違いない!」とかなんとかいった話だろうか。……あれ……なんだろう……目から変な汁が……もしかして、これが涙……?

上記の台詞においては、apprehendは上辺、あるいは実際に現れている現象、表象といったものを捉える意味であるのに対し、comprehendはもっと深い部分を含めて捉えるといった意味になっているのが分かると思う。
よく似た言葉の微妙な意味の違いを捉えて、これだけの台詞を書くあたりは、さすがはシェイクスピアと唸らされる。

ところで、apprehendを「理解する」という意味合いで使うことは現在では珍しく、古風な言い回しと感じられるようだ。例えばlexico.comでapprehendの項目を見てみると、第一義はArrest (someone) for a crimeとある。実際、ネイティブの英語話者は「逮捕する」という意味を最初に思い浮かべるらしい。

また、ほとんど使われなくなったせいもあるのだろうか、apprehendが「理解する」という意味で使用される場合でも、上記のような意味の違いは、あまり気にしないことが多いようだ。

というわけで、実際に役に立つシーンは皆無と思われるが、この記事を読んだ皆さんは、ぜひ違いの「分かる(comprehend)」人になって頂きたい。

次回の記事は、今回に関連して今回書ききれなかったapprehendとcomprehend、そして他のいくつかの単語についての話の予定。

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