Black Lives Matter のmatterはどういう意味か

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時事ネタを絡めつつ、今回も小ネタ。

Anyway the wind blows,
doesn’t really matter to me, to me

いわずとしれた、Queenの名曲、”Bohemian Rhapsody”からの一節だ。
実はこの歌詞、”Anyway the wind blows, …”(どうせ風は吹くんだし、)だという説と、”Any way the wind blows …”(どう風が吹こうが)だという説の二種類があるらしい。どちらかによって歌詞の解釈も変わってくるわけで、インターネットでもこの2つの説が拮抗している感じである。ここでは、前者の説を取ってみた。

前半部はともかくとして、後半部、つまり”doesn’t really matter to me”の部分は、一般的には「俺にはどうでもいいことさ」「僕には関係ないさ」といった感じで訳されることが多い。
今回は、このmatterという動詞を、どう訳すのかとか偉そうなことはいわないまでも、どういう意味があるのか考えていきたいと思う。

なんてことを考えたのは、もちろん先般より巻き起こっている”Black Lives Matter”運動が原因である。
が、ここでは政治的な立場であるとか、実際に起っている運動の是非であるとか、そういうことは述べないことにする。もちろん、差別はやめておこう、ということ自体は自明の話として。

“Black Lives Matter”は、現在のところ「黒人の命は大事(だいじ)」ってな感じで訳されているようだ。
個人的には、この訳はピンとこない。かといって、「重要」と訳すのも、だいじ、よりはマシだが、どこかピントが外れている気もする。

といっても、Merrian-Websterのmatterの項目を見ても、”to be of importance”と書かれているわけで、訳として間違っているというわけではない。
ただ、なんとなく微妙に訳しきれていないと感じる、そういう話である。

考えるに、その原因はいくつかある。

まずは、一般的にmatterを動詞で使用する際は、どちらかというと否定の形で用いることが多いということ。最初に挙げた”it doesn’t matter”のような使い方だ。
これを否定する形であるならば、ニュアンスとしては「どうでもよくは無い」というものになる。
個人的には、「だいじ」「重要」よりは、こちらのほうが近い気がする。
今までどうでもいいものとして扱われてきたものを、そうじゃないんだ、どうでもいいものじゃないんだ、と主張する意味合いになる。

もう一つは、matterには「重要」に加えて、「何かを変える力を持つ」という意味があるということだ。
日本語に訳すなら「物を言う」が近いかもしれない(やや実利的な意味合いが強すぎるかもしれない)。

「重要」なものが「力を持つ」のは当たり前じゃない?と思われるかもしれないが、日本語で「重要」というときには、どちらかというとその重要なものが「なければ悪いことになる」のに対して、matterは「あればいい方向に変わる力をもつ」という、方向性がやや異なる表現だ。これも、訳がどうもしっくりとこない原因だろう。

そんなわけで、一種のダブルミーニング的なものでもあり、訳すのは非常に難しい。
個人的には「黒人の命は物を言う」という訳を提唱してみたい。ま、これもイマイチだけど……matterと「物」つながりということで。

さて、以上を踏まえた上で、面白い看板(?)を紹介しよう。

You Matter, Don’t Give Upと書かれた看板だが……いや、違うようにも読めるような……。
これでひとしきり笑った後には、matterの持つ意味も、ある程度分かるのではないだろうか。

今回は、以上。

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