CMYKのKは “key plate” のK?そもそも key plate って何?―その1

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CMYK、いわゆるシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックのKは、実はblackのKではなくてkey plateのKらしいという話を、どこかで読まれたことがある人も多いと思う。
実は、僕はずっとblackのKだと考えていて、そのことを知ったのはつい先日のことだったりする。

なるほど、興味深い……のだが、あちらこちらの記事を読んでも今ひとつ腑に落ちないことが多かったので、色々と調べてみた。というわけで、皆さんにもその知識をおすそ分けしようと、そういう記事である。

ざっくりしたことが知りたいだけの人は、googleで“key plate”と検索して、他の記事を読んでみてもらいたい。

ちょっとマニアックな話を知りたい人は、どうぞ。

今回は色々と引用文が多めで長いので注意。
一応適当な訳をつけたつもりだが、誤りなどある場合は遠慮なく指摘いただきたい。後からこっそり修正するので……って、こっそりかよ。

また、僕は印刷を専門に行なっているわけでもなく、研究者というわけでもないので、誤りがある可能性は高い。もし誤りを発見された方は、遠慮なく指摘いただきたい。後からこっそり(以下略

ではスタート。

まず、大前提となる基礎的な話から。plateというのは、印刷の際に使用する「版」のことだ。凹版とか凸版とかいろいろあるが、その「版」である。現在は輪転印刷が一般的だが、もともとは版画やガリ版のように平らな板を使用していた。平板、つまりプレート(plate)から転じた意味の単語だ。

そして、いきなりだが、ブリタニカ百科事典の第14版(1932)にある、Photo-Engraving(写真製版)の項目に出てくる解説を紹介しよう。
ちなみに、先に書いておくが、 途中にある琥珀色のフィルターがどうこうというのは、この前段にある、フィルターを通した露光による色分解の話を受けている。

It is now usual to include a fourth colour when reproducing coloured subjects. This is usually printed in a grey or black; “the colour”, however, is not dissected in the ordinary sense of the term, although an amber filter is used. The fourth plate represents the whole of the tones in the original in their proper relation to each other, and becomes the key plate.

以下適当訳。丸括弧内は僕による注記。

現在ではカラーのものを再現する際は、(黄赤青に加えて)4色目を含めるのが一般的となっている。これは通常はグレーもしくは黒の「色」で印刷される。しかし、この「色」は、琥珀色のフィルターを使用はするものの、通常の意味での色分解の「色」ではない。この4番目のプレート(版)はオリジナルの全体的な色調を、各色との適切な関係で表現し、key plateとなる。

The Encyclopaedia Britannica, 14th edition(1932)

これが、現在の印刷業界でも使用されている、key plateという言葉の意味に近い。ざっくりいうと、全体の色調を決める版……ということになるだろうか。ただ、なんだか分かったような分からないような説明でもある。

ちなみに、事典の同項目内では、他の版の色は「黄赤青」の3色と表現されている。ただし、分解に使用するフィルターはそれぞれ青緑赤と説明されていたので、実際の色は青緑赤の補色であるイエロー、マゼンタ、シアン……YMCとなる。ふむ。今と変わらない。これにkeyを足して順番を変えれば、今のCMY+Kというわけだ。

ところで、上の文章で少し気になる点がある。それは、4色目(つまりkey plate)を使用するのが、「現在では一般的(It is now usual)」という言い方である。

つまり、以前はkey plateは使っていなかった……ということになる。そこで、次にもう少し古い、アメリカで最も長く続いた印刷業界紙”Inland Printer”第19号(1897)に出てくる記事を紹介しよう。

The seventh section of the Easter number of the New York Herald, published on April 4, was of special interest from the fact that the illustrations on four of its pages were produced by the three-color process.(中略) Had a key plate been printed on these illustrations in the Easter number it would have sharpened them up and given them the snap which they lacked. Print any colored illustration on a newspaper without its key plate and it will be vague and meaningless, (中略) When time, material and presswork can be had, three plates will give highly satisfactory results, as shown by the frontispiece to the April Inland Printer, but with the conditions on a newspaper using large plates four printings will be necessary.

以下適当訳。丸括弧内は僕による注記。

(1897年)4月4日に出版された、New York Heraldイースター号の第7セクションは、その4つのページに掲載されたイラストが、3色(印刷)処理によって製作されたという点で、特に興味深いものだった。(中略)イースター号のこれらのイラストの上にkey plateが印刷されることで、イラストをはっきりとしたものに仕上げ、欠けていたキレを与えることになったのだろう。新聞にkey plateを用いずにカラーイラストを印刷すると、ぼんやりとした、つまらないものになってしまう。(適切な)時間と原料、印刷工程があれば、Inland Printer 4月号の表紙にみられるように、3枚のプレート(版)は満足の行く結果を出すことができる。しかしながら、新聞のように大きな版を用いる環境下では、4回印刷(4枚のプレートを用いる印刷)を行う必要がある。

Inland Printer, Volume XIX(1897)

実に示唆に富んだ記事である。つまり、当時カラー印刷で一般的だったのは3色印刷だったのだが、key plateを用いて細部の明暗を調整する手法により、よりカラー印刷をキレイなものにできるようになった、ということだろう。
4色輪転印刷機の発明が1892年(もしくは1890年)としている資料が多いことを踏まえると、当時としては、おそらく最新の技術だったと思われる。

ところで、このkey plateは、現在もそうなのだが、別に4色印刷のみに使用されたわけではない。
例えば、商業に関する雑誌”The Tradesman”の、印刷に関わる用語集に次のような解説がある。

Combination Plates – Color
Plates made by the use of a key plate and color plates, either halftone or line, to be printed in two or more colors

以下適当訳。

Combination Plates – Color(組み合わせ版-カラー)
key plateとcolor platesの組み合わせを用いて2色かそれ以上の色で印刷する為の、ハーフトーンもしくはラインのプレート(版)のこと。

The Tradesman Vol.68(July, 4th, 1912)

重要なのは、例えば2色刷りのような印刷物であっても、key plateとcolor plateの組み合わせによって行われることが多かった、という点だ。

しかし、何故そんなやり方を取ったのか。
CMY+Kの印刷で考えるなら、原理的にはCMYの3色があればすべての色を表現できるわけで、Kは必要ないはずである。もちろん、例えば黒の文字を印刷するためにCMYの3色をわざわざ使うのは無駄だから、黒として別に印刷するというのは分かるとしても、イラストの色調になぜKが必要だったのか。
そのヒントが、上記記事にあるhalf tone or lineという記述にある。

ここに書かれているlineというのは、単純に彫って作成されるような形式の、我々が一般的に想像する(ガリ版や活字を想像して頂きたい)普通の手法で作成される版のことだ。一方、half toneというのは、写真やイラストに用いられる、様々な階調の色を表現するための版の一種である。

勘の良い方は名前から気づいたかもしれないが、漫画のスクリーントーンのように、細かな点の集まりで色の濃淡を表現したものを、half toneと呼ぶ。これは現在の出版物でも、ごく一般的に用いられている手法で、日本語では「網点」という。
印刷博物館「網点の話」(残念ながら公開を終了した模様)に詳しいが、光学的な手法を用いて作成される(交差線スクリーンと呼ばれる網を通して露光を行うことで、光の強さを網点の大きさに変換する)。

half tone以外に濃淡を表現する手法としては、版の彫りの深さを変え、それによってインクの量を変えるやり方(凹版印刷で行われる)や、ゼラチンを用いてインクの量を調整した製版などもあったが、製法や耐久性の問題から、新聞などの大量生産物には向いていなかった。
一方、half toneを用いた製版は、実際の印刷はインクの量による濃淡ではなく、二値的に行われるため、品質も安定し、大量生産に向いている手法と言える。

ところが、half toneを用いた3色印刷では、色の再現を美しく行うのは意外と難しい。
輪郭がはっきりと出なくなってしまったり、あるいは、特に多色のhalf toneを重ねた印刷では、点の配列によるモアレ模様が出てしまったりする。
なにより、黒がきちんと締まった黒にならないというのが最大の欠点である。

もちろん、それらを可能な限り防ぐための細かなテクニック-職人芸に相当する-などもあったりするのだが、カラー印刷においては各色ごとに(あるいは色の組み合わせごとに)その調整を行う必要がある。これは、手間暇を掛けて作成される芸術的価値の高い印刷物ならともかく、新聞などで行うのは現実的ではない。

そこで、key plateを用いて、上からもう一色(主に黒や灰色)を被せて印刷し、それでもって細部の調整を行うという手法が生まれたわけだ。これならば、職人的な調整を行うにしてもkey plate一枚で済み、かつそれなりの品質を出すことができる。

また、これもよくある手法だったのだが、色自体を単純なベタ塗りにしておいても、上からkeyplateの効果を加えることで、細やかなグラデーションを再現することができ、色彩豊かに見えるイラストを作成することもできた。

つまり、2色以上の色で印刷を行う際には、そのうちの最も明暗に関わっている一色(一般的には一番暗い色、もしくは黒や灰色)の版のみに細かな調整を与えることで、全体的なクオリティを上げることができた。そしてそれを、key plateと呼ぶようになった。
まさに、全体の品質の「鍵を握る」という意味でのkey plateなわけだ。

さて。
実は、さらにさかのぼると、今回説明した内容の、現在の印刷用語としてのkey plateの祖先となる、少し別のkey plateが存在する。

では、そもそもkey plateなる用語は一体どこから出てきたのか。それがどうして今のような使われ方になったのか。そして、本題に戻って、現在のCMYKのKは、key plateのKなのか。

少し長くなってしまったので、ここで一旦筆を置いて記事を分けることにする。
続きはこちらの記事へ

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