ノエイン もうひとりの君へ

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前回の続き。

「天空のエスカフローネ」の後、赤根和樹が監督を行ったアニメとしては「ジーンシャフト」「ヒートガイジェイ」がある。
どちらもSF色の強いアニメだが、ジーンシャフトについては1クールという尺の問題からか、個人的には不完全燃焼の印象が濃かった。毎回サブタイトルがSF小説の題名のもじりになっているあたりや、世界設定にSF愛を感じる作品ではあったのだが。

一方、ヒートガイジェイは少し変わったハードボイルド調のアニメだった。中年男性型アンドロイドと線の細い主人公のバディものだったのだが、このアンドロイドが異常に漢(オトコ)くさいのだ。アクションシーンの締めに蒸気を噴き出し、決め台詞に男についての格言を吐く、実に味わい深いキャラだった。この作品は2クールの長さを生かし、アクションとしてのカッコよさだけではなく、主人公の成長譚としての完成度も高い、実にいい作品だった。

そして2005年、赤根和樹監督が歩んできた天空のエスカフローネ~ジーンシャフト~ヒートガイジェイといった作品の、総決算とも呼べる(僕が勝手に呼んでるだけだが)作品が放送される。

それが「ノエイン もうひとりの君へ」だ。

ノエインは、綿密に練られた設定に基づくSF作品であり、アクションシーン満載のずば抜けた作画を楽しめるアニメ作品であり、そして何よりも、王道のジュヴナイル作品でもある。その魅力を順に話していこうと思う。

まず、SFとしてのノエイン。

ノエインは、量子論による多世界解釈をベースとして、現代の函館と、ありうるかもしれない未来の「時空」(と作品中では呼称される)を舞台とした、SF作品だ。
大体、エンタメ作品で量子論と多世界解釈なんて持ち出したとしても、ガジェット的に用語だけが用いられて、結局は設定倒れの、ただのありがちなパラレルワールドものになりがちだ。
ところが、ノエインでは量子論そのものが、世界設定・シナリオに深く関わっていることもあってか、意外なくらいきちんとした扱い方をされている。
もちろん、ある事件をきっかけに量子化現象が巨視的な領域でも起こるようになってしまう……という設定は、物語を駆動させるためのご都合主義に過ぎない。しかし、世界そのものは観測によって確定するのだという量子論の基礎の部分は、実に見事な形で物語の核に用いられている。
ちなみに、僕が個人的に感心したのは、舞台となる現代の函館の時空も、未来の時空から見た場合は「あり得たかもしれない無限の過去のひとつ」であり、単なるシミュレーション―幻に過ぎないという部分だ。

作画アニメとしてのノエイン。

なにがすごいって、いきなり第1話と第2話で全然キャラクターの絵柄が違うのだ。動かないとか、クオリティを保てないとか、そういう話では、勿論無い。作画監督・原画の持ち味を活かしたアニメーションで行くぞという、一種の宣言だったのだと思う。
ちなみに、第2話と第7話の作画監督は石川健介で、全体から見た場合、この2つの話が相当浮いた絵柄になっているのは間違いない。その絵柄の振り幅を許容していたという一点だけを見ても、石川健介だけでなく、他のアニメーターも存分に個性を発揮できる製作体制だったのではないだろうか。
さて、実のところ僕は、第1話初っ端から、ひと目で惚れ込んでしまった。大久保宏による、冒頭の爆発シークエンス、そしてそれに続く少し粗めの絵柄でのダイナミックな戦闘シーン。このアニメは(このまま行けば)相当すごいものが観られるに違いないと思ったのを、今でも覚えている。
そして、ノエインは見事にその期待に応えてくれた。
特に白眉なのは、やはり、第12話「タタカイ」だろう。りょーちもをキーアニメーターとして描かれた、敢えて荒削りな原画をそのままアニメにしてしまったような戦いのシーンは、シナリオの盛り上がりも相まって、ノエイン屈指の名シーンとなっている。いや、ノエインのみならず、アニメ史上に残る、と言っても過言ではないと思う。
他にも、大久保宏、岸田隆宏、山口晋、松本憲生と、名立たるアニメーターによって描かれる戦闘シーンの数々は、その作画の素晴らしさは勿論のこと、バリエーションも実に豊かで、何度見ても飽きが来ない。作画マニアならば、必ずチェックしてもらいたい。

ジュヴナイルとしてのノエイン。

異次元から竜騎兵と呼ばれる戦士たちがやってくる。彼らの標的となってしまった小学6年生の少女とその友人たちは、複数の次元を股にかけた戦いに、否応なく巻き込まれていく……。 量子論だとか多世界解釈だとか、小難しいSF成分があるにしても、実のところノエインのシナリオ自体は、典型的なジュヴナイルだ。
そのメインテーマは「運命は自分で選ぶもの」。これは天空のエスカフローネのテーマ「運命は自分で変えることができる」を思い出させる。普遍的なものではあるが、若者向けの作品のテーマとしてふさわしいものだろう。
話が進むに連れて、子どもたちが成長していく様子を丁寧に描かれている。それを見守る大人たちも、それぞれに葛藤を抱えながらも、きちんと前に進んでいく。
竜騎兵たちも個性豊かで、それぞれの行動はきちんとした感情・動機があり、それぞれの関係性が変わっていく中、一種の群像劇を描き出す。
実によく練られたシナリオなのだが、一つ不満があるとすれば、主人公であるハルカのキャラクターが若干無個性でいい子すぎるところだ。しかし、実のところハルカは物語上の狂言回しにすぎず、真の主人公はユウであるという見方もできなくはない。
そして、ネタバレというほどでもないが、続編だとか色気を出さず、最後はきちんと終わるのがいい。なので、皆さんも安心して観てもらいたい。

また、ノエインに、もう一つ特筆すべきものがあるとすれば、その音楽だろう。
eufoniusによるOP「Idea」は透明感あふれるボーカルと、それを支えるストリングの疾走感が作品にふさわしい曲だ。また、大御所七瀬光による劇中曲も実に素晴らしい。特に、サントラの一曲目に収録されている「シャングリラ」のド迫力のコーラスとオーケストラは、明らかにTVアニメの枠を超えたもので、その強烈な印象は、一度聴いたら忘れることはできない。

是非、機会があれば観てもらいたいアニメだ。
と、直球のオススメで、今回は〆たいと思う。

いや、ホントいい作品だし、コアなファンは多いハズなんだけど、何故か言及されることが少ないんだよな…… 。何故だ。

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