many moons ago

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月が歌詞にでてくる曲と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるだろうか。

僕がまず最初に思い浮かべる曲は、

Say, it’s only a paper moon
Sailing over a cardboard sea
But it wouldn’t be make-believe
If you believed in me

It’s only a paper moonという有名な曲だ。

ちなみに、この歌詞中でのmake-believeは名詞で、見せかけのもの、まやかしといった意味だ。つまり、あなたが私を信じてくれるなら、見せかけのものにはならない(真実のものになる)という意味になる。
しばしばmake-believeを信じさせるという動詞的な意味に取って、結果的に逆の意味に訳してしまうケースが見られるので、念のため。

Moon river, wider than a mile
I’m crossing you in style some day
Oh, dream maker, you heart breaker
Wherever you’re goin’, I’m goin’ your way

そして、次に思い浮かべるのは、ティファニーで朝食をの中で、オードリー・ヘップバーンが歌ったMoon River

片方は軽快なジャズのスタンダードナンバー、もう片方はどこかミステリアスなバラード。いずれにせよ、月というと、お洒落でロマンチックなイメージがついて回る。

さて、月、moonが出て来るフレーズに、”many moons ago”というものがある。初めてこの言い回しを聞いたとき、なんて洒落た言い回しなのかと少し感心した覚えがある。

意味はすぐ分かる。日本語でひと月ふた月と数えるのと同じように、monthはmoonと同語源でもある。結局のところ、僕たちは月を数えているのだから、”many moons ago”というのは、要するに”many months ago”という意味合いの言葉だろう。ちなみに、実際には”long time ago”といった意味合いで使われるらしい。

さて、このフレーズはいつ頃から使われているのだろうかと、何気なく調べてみると……

Google Books Ngram Viewerによると、1700年台後半からとなっているものの、出ているデータが怪しい動きをしている。サンプル数の問題だろうか?

そこで、Internet Archiveでフレーズ検索をし、出版年順でソートをしてみた

(2017年11月現在)何故かCharles Kingsleyの”Westward Ho”が一番古いことになっているが、それはただの間違いだろう。次に出てくるのが、”A new voyage and description of the isthmus of America”(1699)という本だ。

この本を書いたのはLionel Waferというウェールズ人で、簡単に言うと、海賊の船医をしていた人らしい。バーソロミュー・シャープやウィリアム・ダンピアといった有名な海賊と一緒に、パナマ近郊でスペインの港を荒らし回っていた。

内陸の探検の最中、仲間が扱っていた火薬の爆発事故から脚を負傷し、満足に動けなくなった彼は、他の数人とともにダリエン地峡に取り残されてしまう。そして、現地のネイティブ・アメリカン、クナ族の世話になることになったのだ。

当時ダリエン地峡一帯で、クナ族はかなりの勢力を誇っており、現地で勢力を伸ばしていたスペイン勢と小競り合いを起こしていた。そこで、先程名前の出てきたバーソロミュー・シャープを中心とした一行は、クナ族と共同戦線を張り、スペイン勢を叩くことにしたわけだ。クナ族の族長の娘を助けたりもしたらしく、それなりの信頼関係を築いていたのだろう。このあたりの話は、WikipediaのBartholomew Sharpの項にも出ている。

さて、Lionel Waferは数カ月の間ネイティブ・アメリカンであるところのクナ族と生活を共にし、最終的にはイギリスに帰るのだが(クナ族の族長との間で、娘を娶るという約束などもしていたようだ)、その時の経験を元に一冊の本を書いた。その本が、”A new voyage and description of the isthmus of America”というわけだ。

その中に、”many moons ago”という表現が登場する。そこでは、彼らクナ族はヨーロッパ人がするような時間の数え方をしない、といったことが書かれている。

I observ’d among them no distinction of Weeks, or particular Days, no parting the Day into Hours, or any Portions,
(中略)
They reckon Times past by no Revolutions of the Heavenly Bodies, but the Moons: For Lacenta speaking of the Havoc the Spaniards had made to the Westward, intimated ‘twas a great many Moons ago.

彼らは星の動きによってではなく、月によって時を数える。Lacenta(クナ族の族長)が西でのスペイン人による略奪について語ったとき、それは随分前の月の時の話であるとほのめかした。

つまり、many moons agoという表現は、ネイティブ・アメリカン由来だったのだ。

確かに、一般的にネイティブ・アメリカンは月を重要視する暦を使用しているようだ。部族ごとに様々ではあるものの、一年のそれぞれの時期の月に固有の名前をつけたりもしているらしい。

僕が最初に”many moons ago”という表現を聞いたときに感じたイメージ、それこそオードリー・ヘップバーンがチャーチワーデンのパイプを咥えながら話すようなイメージは誤りだったわけだ。

むしろ、ネイティブ・アメリカンの族長が口から煙を吐きながら、「あれから、いくつもの月が巡ったものじゃ……」と語るイメージこそが、本来のものだったのである。どっとはらい。

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