ブラック・ジャック(OVA)

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先月Amazon Primeビデオに、ブラック・ジャックのアニメが来ているのを見つけた。もちろん、2004年のTV版ではなく、1993年~のOVAのことである。

実はVHSで発売されていたときに全巻持っていたのだが、例によって紛失してしまっていたので、かなり久しぶりに観てみたのだが、やはり素晴らしい。
実は、出崎統の数ある監督作品の中で、個人的に一番好きな作品が、このシリーズなのだ。

出崎統(でざき・おさむ)は、一般の人にはあまり知られていないものの、古参のアニメファンならば間違いなく知っている人でもあり、アニメ界の伝説だ。今更僕がその偉大さを語ったところで、蛇足に過ぎないものになってしまうだろう。

しかし同時に、何かを語っておかなければならないという、使命感にも似たなにかを感じてもいる。それはおそらく、出崎統が故人となってしまったからだろう。宮﨑駿よりも、富野由悠季よりも若かったのに、最初にいなくなってしまった。

宮﨑駿の作品が作画で、富野由悠季の作品が脚本で、押井守の作品がレイアウトで見分けられるとするならば、出崎統の作品は、その演出技法で分かる。
透過光処理・三連続パン・画面分割・ハーモニーを用いた止め絵カットなどの技法は、出崎統が完成させたと言っていいだろうし、それらを見ると一発で出崎演出だと分かるほどだ。

いまこれらの演出が使われると、どうも古臭いと感じる人達がいるようだが、それは、あまりに独自性を持った演出だったためだと思う。金田ビームが80年台SFアニメを思い出させるように、出崎演出はあしたのジョーやエースをねらえ!を想起させる。

話をブラック・ジャックに戻そう。

実は、Amazon Primeビデオで改めてこの作品を観直したとき、おや?と思った。画面サイズが4:3のスタンダードではなく、横長のビスタサイズになっていたからだ。恥ずかしながら後から知ったのだが、元々ビスタサイズで制作していたらしい。VHSでのソフト発売時にカットされていたのだが、後にオリジナルサイズを収録したBlu-rayが出ていたのだった。

ブラック・ジャックの原作は、もちろん手塚治虫による漫画なわけだが、手塚治虫らしく丸みを帯びた絵で、コミカルなシーンも多い。それに対して、このOVAシリーズは劇画調のリアルタッチな絵で、全体の雰囲気もシリアスだ。陳腐な言い方だが、ハードボイルド、と言ってもいい。

ブラック・ジャックの声が大塚明夫というのも、実にいい。人物設定も、原作とは違い随分と落ち着き、大人びた雰囲気になっている。それだけなら男の世界全開という雰囲気の中、どこか舌足らずな演技が光る水谷優子演じるピノコが、いいアクセントになっている。

シナリオも、原作の骨子を借りつつもオリジナルな展開が多い。作品全体の雰囲気に合うようにリライトされている。

全体的にみて、完全に新規に作成された、実に大人のためのアニメなのだ。

原作ファンの中には、この作品は受け付けないという人も多いかもしれない。それだけ、出崎版ブラック・ジャックとでも呼ぶべき、独特の雰囲気を持ったアニメだ。もっとも、元々出崎統は原作改変が多いことでも有名なのだが。

実際の所、ここが凄い、という飛び抜けた点はない作品なのかもしれない。だが、円熟した出崎監督の演出と杉野昭夫の作画、それを支える豪華な声優陣による演技、すべての要素が非常にハイレベルで、調和の取れた作品なのだと思う。

アニメ慣れしていない人も含めて、万人にオススメできる。

余談だが、ブラック・ジャックOVAシリーズ第1話の依頼人は、大塚周夫が演じている。ブラック・ジャック21(TV)第1話での共演が有名になった大塚明夫・周夫の親子だが、同じブラック・ジャックのアニメの第1話で、すでに共演していたわけだ。

また、この作品を見て興味を持った人は、他の出崎統監督作品も、是非みて欲しいと思う。特に、劇場版エースをねらえ!(1979)は90分と短くて見やすい割に、信じられないほどの物語密度と、今見ても色あせない演出の、大傑作だ。

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