full steam ahead

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Damn the torpedoes,  full speed ahead!

試訳:機雷なんざくそくらえだ、全速前進!

この台詞は、南北戦争中の1864年、モービル湾の戦いにおいてデビッド・ファラガット提督が叫んだとされるものだ。ちなみに、torpedoは現在は一般的には魚雷という意味なのだが、当時は機雷のことをこう呼んでいたらしい。

本当の台詞は “Damn the torpedoes. Four bells, Captain Drayton, go ahead. Jouett, full speed.”というものだったのではないかとも言われている。ここでのfour bellsとは、鐘を4回打つことで、機関士に対して全速前進を行う指示を出せ、という意味だ。

いずれにせよ、何か悪いことが待ち受けているのを分かっていながら、それでも前に進むときに、いまでも”Damn the torpedoes”という言い回しをしたりもするようだ。

ところで、full speed aheadと同じく全速前進という意味を持っているイディオムにfull steam aheadというのがある。辞書で調べると、蒸気圧を一杯にして前進する、つまり全速前進のこと、といった感じの説明がされている。一見それっぽい感じの説明だが、個人的にはこの説明は怪しいと思っている。

僕の説はこうだ。1800年台から、蒸気機関車の普及が始まる。それまでの人馬を使った輸送に比べると、蒸気機関車の持つ力は圧倒的なものに感じられたのだろう。蒸気にまつわる様々な言い回しが、日常に使われるようになった。

build up a head of steam(蒸気圧を上げる→なにかを行う準備をする、やる気を出す)
with a full head of steam(最大蒸気圧で→全力で、熱意を持って)

といったイディオムだ。ちなみにここでのheadは、圧力という意味で用いられている。これらのフレーズに共通するイメージは、蒸気機関の持つ力強さだ。

そして、蒸気のフレーズと、以前から使われていたfull speed aheadという表現との混交が起こった。結果、full steam aheadという表現が新たに生まれてしまったのではないかと考える。


上のグラフは、Google Books Ngram Viewerによる、フレーズの使用頻度の推移を表したものだ。僕の予想している流れと概ね一致した推移になっていることが分かると思う。

2回の世界大戦の時期にfull speed aheadという表現が、鉄道よる大量輸送の普及+南北戦争の時期にa full head of steamという表現が急増しているのも興味深い。

それに比べると、full steam aheadという表現はどこからともなく使われ始め、しかしながらも、一定の地位を確保しているように見える。

full speed aheadという表現は、あくまでもスピードの話だ。目的地に少しでも早く着くために、全速前進するイメージなわけだ。

それに対してfull steam aheadは、どんな障害があろうと全力で目的地に向かう。いわば全力前進という意味合いが大きい表現と言える。蒸気機関の持つ圧倒的な力強さ、そのイメージを想起させる、実に格好いい言葉ではないだろうか。

 

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