ヒットポイント(Hit Point)

Share

♪ヒットポイント回復するなら 傷薬と宝玉で

女神異聞録ペルソナの作中、サトミタダシ薬局店で流れるこの歌を、口ずさめる人は多いだろう。ATLUSは何故変な歌をゲームにぶっこんでくるのか。豪血寺一族2からの伝統か。俺達の歌を聴いてくれ。

さて、このヒットポイントという言葉(と、その概念)はどこから来たのか、というのが今回の本題。

きっかけは、てっけん氏(@tekken8810)の、このツイートを見かけたことだった。

思い出してみるに、僕がヒットポイントという用語に初めて触れたのは、おそらくドラゴンクエスト(FC: 1986)だったように思う。その時は、多少用語に疑問を持ったかもしれないが、なんとなく受け入れていたのだろう。なんせ小学生の頃のことだし、記憶も曖昧だ。
ドラゴンクエストの後、ウィザードリィ(FC: 1987)で遊んだ時も、同じヒットポイントという用語だったので、そういうものかと思ったのかもしれない。

それだけに、なぜ「ヒットポイント」という言葉なのかは、きちんと考えたり、調べたりすることはなかった。

さて、ドラゴンクエスト・ウィザードリィといったコンピュータRPGの歴史を遡っていくと、最終的にはPLATOと呼ばれる教育用の汎用コンピュータシステム上で作成された、いくつかのゲームに行き当たることになる。その中では、プレイヤーキャラクターのライフを、”Hits”という用語で表しているケースが多いようだ(参考:pedit5の画面)。これは、明らかにHit Pointから来ている用語だ。

さらに遡ると、それらのゲーム群は、結局のところ、ある一つのゲームから多大な影響を受けていることが分かる。
そう、TRPG(Tabletop Role Playing Game)の始祖たる、”Dungeons & Dragons”(D&D)だ。

なんのことはない。全ての源流はD&Dにあったわけだ。まさに予想通りの展開といえる。
では、D&DがHit Pointという用語、概念を最初に用いたのだろうか?答えは、Yesでもあるし、Noでもある。

GameSpyによる、D&Dの作者の一人、Dave Arnesonへのインタビュー記事に、そのあたりの経緯がある。

We had to change it almost after the first weekend. Combat in Chainmail is simply rolling two six-sided dice, and you either defeated the monster and killed it … or it killed you. It didn’t take too long for players to get attached to their characters, and they wanted something detailed which Chainmail didn’t have.
(中略)
I adopted the rules I’d done earlier for a Civil War game called Ironclads that had hit points and armor class. It meant that players had a chance to live longer and do more.

以下適当訳。
最初の週末の後にはもう、(ルールを)変える必要があった。Chainmailにおける戦闘は、単に六面ダイスを2個振るだけで全てが決まった。モンスターを殺したり……あるいは殺されたりといった具合だ。プレイヤーたちが自分のキャラクターに愛着を持つようになるのに、そう長くはかからなかったから、Chainmailのルールが持っていない、もっと細やかなものを求めたわけさ。

(中略)
前に南北戦争をテーマとしたIroncladsというゲームのために作ってあったルールを、当てはめてみたんだ。ヒットポイントとアーマークラスをもつルールをね。つまり、プレイヤーはもっと長く生きて、もっとたくさんのことを出来るチャンスが与えられるわけだ。

ここで出ているChainmailというのは、D&Dのもう一人の(というかこちらの方が有名なのだが)作者Gary Gygaxによって作られた、中世を舞台としたミニチュアウォーゲームのことで、このゲームのファンタジー拡張ルールが、D&Dの下地となった。
また、残念ながら、ここで述べられているIronclads(装甲船)というゲームは、結局発売はされなかったようで、実際のルールがどうであったかは確認できない。同名のものは存在するものの、別のゲームのようだ。
以上、参考情報。

さて、WikipediaのHealth (gaming)の項目には、

US Navy used similar concept in their tactical war games already in 1920s and 1930s. In their simulation each ship had Life parameter. The unit of Life of the ship was a number of “equivalent penetrative 14-inch shell hits”. The Navy considered ie. that Kongō-class battlecruiser had 12 Life points and Nagato-class battleship had 18.8.

という記述がある。米海軍が使用していたシミュレーションの話ではあるが、(装甲を貫通した)14インチ砲弾何発分耐えられるかを、船のライフとして設定していたというのだ。金剛級なら12、長門級なら18.8と、随分と生々しい数字が並んでいる。
つまり、Hit Point、あるいはユニットごとにライフを持つという仕組み・概念自体は、昔から考えられていたといっていいだろう。

また、ウォーゲーム系はその源流が実際の軍事シミュレーションにある点を考慮しても、特に個々の艦艇が大きな働きを持つ海戦系のゲームでは、ユニットごとにライフの管理を行うゲームがあったであろうことは、想像に難くない。
実際、例えばFletcher Pratt’s Naval War Gameという1943年のゲームでは、ライフ制(さらに、受けたダメージによって艦船の機能が制限されていく)が採用されている。

ちなみに、もっと古いゲームFred Jane Naval War Game(1906)―あのJane年鑑のFred T. Jane氏によるゲームだ―では、単純なライフ制ではなく、極めて精緻な部位ダメージ性が採用されている。そういう意味では、既に1900年代前半から、実のところライフ制はプレイヤビリティを重視した(簡略的な)ルールであったことさえ伺える。海戦ゲームの沼は深い。

閑話休題。そして、おそらくは、Hit Pointという言葉そのものの由来も、ここにあるのだろう。何発の砲弾の直撃(Hit)まで耐えられるのか、そういった意味合いが含まれていることは、ほぼ間違いないと思われる。

#あるいは、原義としては部位ダメージ制由来で、文字通り砲弾の命中を受ける可能性がある部所の数を示していた可能性もあるのだが、個人的な想像にとどまる。

しかしながら、先述のインタビュー内容にもあるように、ミニチュアゲームの個々のユニットに細かなキャラクター性をもたせ、Hit Pointによる細かな管理を行うようにしたのは、D&Dが最初と言ってもいいのだろう(少なくとも商業ベースでは)。
その意味では、RPGという一つのジャンルを発明するにあたって、Hit Pointという方式を採用したのは、偉大な一歩だったといえる。

結論:D&Dは偉大だった。うん、知ってたけど。

ところで、実際のところ、近年のRPGでは「ヒットポイント」という言葉をあまり使用していない。HP(ヘルスポイント)やライフ、あるいは他の用語を用いているケースが多い。
おそらく、一時期余りにヒットポイントという言葉が広まりすぎたため、陳腐化を避ける傾向があったのだろう。あるいは、やはり単純にヒットポイントという呼び方が不自然だということも、原因の一つなのかもしれない。

そしてさらに、RPGというジャンルそのものが絶対的なものではなくなった現在、どんどん若いゲーマーには通じない言葉になっていくのかもしれない。

しかし、僕を含めて、古いゲーマーは、おそらく「ヒットポイント」と呼び続けるのだろう。
それは、D&D、あるいはもっと古くから脈々と続くゲームの歴史に対して、敬意を示し続けることでもあるのだ。

(2021/10/19追記)
D&Dの戦闘ルールの元が海戦ゲームであるということは、用語とシステムにも示されているのだろう。アーマークラスとはすなわち艦艇の装甲の等級のことであり、命中判定後にダメージを与え、しかもアーマークラスがダメージそのものを軽減はしないシステムは、すなわち装甲を貫通した後のダメージ判定だったと思われる。

Share

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です