そういえば、アニメに関する記事をブログに書くのは、wordpress化以降、この記事が初めてのような気がする。
最初に断っておくと、別に僕はディープなアニメオタクという訳ではない。週に15本も20本も観たりするわけではないし、アニメの円盤で棚が埋まっているわけでもない。観ているのは、せいぜい週に5~10本程度だし、棚で一番容量を食っているのは、本を除けばボードゲームの類だ。
しかし、アニメファンとしての年季だけは入っているので、他とは少し違った視点で、過去作を中心にいろいろと記事を書いていければいいかなと思っている。
その記念すべき最初の記事で紹介するのは、2010年、小池健監督、マッドハウス製作の劇場アニメ「REDLINE」だ。
特に深い理由があって選んだわけではなく、実のところ家にあるBlu-rayの棚を眺めていたら、たまたま目に入ったので、書いてみようかなと思っただけだったりする。しかし、あと付けで考えてみるに、最初に選択するアニメとしては、なかなか絶妙な作品だったかもしれない。
ちなみに、僕自身が今個人的に一番注目しているアニメの監督は、庵野秀明でも細田守でも新海誠でもない。この作品の監督、小池健だ(最近ではLUPIN the IIIrdというアダルト向けのルパンを劇場向けに出しているが、これがまた素晴らしい出来だった)。
さて、この「REDLINE」というアニメ、作画マニアにとっては垂涎のスタッフで、監督の小池健はもちろん、原画に今石洋之、すしお、桝田浩史、そして大平晋也といったラインナップが揃い、第一原画に川尻善昭御大が参加するという、非常に力の入った作品となっている。オイ、すげえな、絶対観なきゃ。
CG全盛の時代に敢えて手書きにこだわり、7年の年月をかけて製作された、総作画10万枚の劇場版アニメ……といった感じの売り文句だったように覚えている。絶対観なきゃ。
そして主演が木村拓哉、ヒロイン役が蒼井優という(当時)若者に人気の二大タレントですぜ、ダンナ。あ、それはどうでもいいッス。
さて、ここまでの話だけでピンときた人も多いと思うが、この映画は、興行としては見事に失敗した。どこまで正確な数字かは分からないが、a worldwide total of $8,267,379 of its $26 million dollar budgetなんて書かれてたりもする。個人的には、当時マッドハウスの経営が傾いたのはこのアニメのせいじゃないかと疑っている。
そもそも総作画10万枚とか、手書きにこだわったとか、大作映画のターゲットであるはずの一般人にとってはどうでもいいことだった。そして、もちろん作画マニアにとってはキムタク×蒼井優とかどうでもいいことだった。
さらに、原作・脚本が石井克人というのも、実はマニアックなポイントではあるのだが、一般人にとっても作画マニアにとっても、どちらにとってもどうでもよかった。念のために書いておくが、石井克人氏が悪かったわけでは、決してない。
もっとも、それを言ってしまうと、そもそも、このとてもじゃないけど一般人に訴求しなさそうな作品に、7年もの歳月を掛けてしまった段階で、失敗は約束されていたともいえる。狙っていた市場と予算規模がマッチしていなかったわけだ。
……そのおかげで、出来てしまったのだ。この笑ってしまうくらい凄いアニメが。
そもそもマッドハウスといえば、どちらかといえば、密度のある写実的なアニメを作るイメージのある会社だ。川尻善昭や今敏監督の作品が典型といえるだろう。
ところが、今石洋之や、すしおといえば、フリクリ以降のガイナックスを支え、現在は独立してTRIGGERで活躍している、デフォルメを大胆に効かせた気持ちのいいアクションで見せるタイプのアニメーターだ。
この2つの系統が悪魔合体し、潤沢な予算を得た結果、密度のある骨太な絵が、デフォルメを効かせて100分間存分に暴れまわるという、おそらく日本アニメ史上例を見ないほどの贅沢な作品が生まれてしまった。
この予告編を観ても分かる通り、キャッチコピーの「常識を覆す究極のプロジェクト」というよりは、控えめに言っても「頭のおかしい(褒め言葉)作画の爆走」である。とにかくどの一枚を切り取ってみても、ポップアートのような格好いい絵になっているのがすごい。
なんらかの特異点的な作品として、アニメ史上に残る作品だと断言できる。
さて、話の筋そのものは、過去の因縁とか恋愛要素とか、少しスパイスを足したチキチキマシン猛レースだと思えばいい。なので、スポーツ要素であるとか、精密なマシン描写であるとか、そういうものに期待してはいけない。狂った世界観で、狂ったキャラクターが、狂ったレースを繰り広げる。頭を空っぽにして、細かいことは気にせず、ノリノリの音楽と驚愕の作画から成立する、狂乱の渦に身を任せつつ観るのが正しい見方だ。
ちなみに、牧野修が書いているノベライズ版がハヤカワSFから出ており、それを読むと意外に凝った設定や、本筋の裏側の話が描かれていたりする。だが、アニメではそのあたりは潔くカットされている。メインのストーリーとグルーブ感に集中させた作りは、今作のコンセプトから言えば、正解だったように思う。
この作品、結果的には興行成績は振るわなかったのだが、観に行った人の満足度は高かったようだ。映像、音楽、声優のすべてが高評価。映画『REDLINE』が満足度ランク首位なんて記事にもなっているし、Rotten Tomatoesでも、支持率83%となっている(記事投稿時。2019年7月現在はレビューが整理された影響か、50%となってしまっている)。実際の所、もっとヒットしても良かった作品のようにも感じるが、そこが映画興行の難しさというものなのだろう。
しかし、ヒットしなかったということは知名度が低いということで、つまり、知っていればそれだけで自慢できるともいえる。みなさん、今のうちに観て、どんどん話題に出して頂きたい。何かの拍子に火が着いてからでは遅い。
あるいは、好きなアニメを訊かれたときに、
「ああ、そういえばREDLINEってのも良かったね。木村拓哉主演のやつでさ」
などとわざと言ってみて、にわかオタクに罠を張ることが可能な点も素晴らしい。
「いや~、タレントが声やってるアニメはイマイチだよね。やっぱ声優でないと」
などと言ってこようものなら、こちらの勝ちである。
……なんの勝ち負けだ、一体。
まあ、それはともかく。アニメが好きな人、特に癖のある作画が好きな人は必見の作品だ。言葉だけではこの凄さは伝わらないので、是非一度観て、僕と同じように「なんじゃこりゃ!」と叫んで欲しい。
余談だが、REDLINEの下敷きとなったTRAVA-FIST PLANETという作品もある。時代としてはREDLINEの後という設定だが、REDLINE中のキャラとメカが出てきたりする。本編はREDLINEとは別の意味で楽しい作品(脱力系コメディ)なのだが、残念ながらDVDは絶版のようだ。