止められない行動をどうやって止めるか?6(裏付編)

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前回の話を、まとめてみよう。

「なにかをしたいという気持ち」が止められないということに、依存症の人は苦しんでいる。
しかし、実はその「なにかをしたいという気持ち」はそもそも存在しない。ただの依存症による生理反応を、脳が何かをしたいという気持ちであると(おそらくは過去のデータに基づき)、誤って解釈しているだけだ。

一方、原点に立ち返って、普通の人は、どのように考えているだろうか。

なにかをしたい気持ちがある。だからこんなにそわそわするんだ。
(念のため書いておくが、ここでそわそわと書いたのは、生理反応を知覚した際起こる感覚のたとえであって、起こる生理反応や感覚は、人によって違うだろう)
おそらく、このように思っているのではないだろうか。

これは、二重の意味で自分の心の動きを誤解している。
まず、順番の誤りだ。なにかをしたいから、そわそわするわけではない。そわそわするのを、なにかをしたい気持ちだと解釈しているのだ。
そして、解釈の誤り。そわそわするのは依存症が引き起こす生理反応を知覚した結果にすぎない。それを、過去のデータに基づいて、何かをしたい気持ちだと勝手に解釈しているのだ。実際には、そのような気持ちは存在しない。

なるほど、そうだったのか……ところで、それが分かったとして、なんなの?
と思われる方もいるだろう。分かったとしても、なにも変わらないのではないのか。

ところが、この理解するということそのものが、効果を持つと考える十分な根拠がある。ここでは、ストームズとニスベットによって1970年に行われた、非常に有名な実験を紹介する。簡単に説明しよう。

不眠症の人に、偽薬(効果のない薬)を与える。
その際、薬について、「生理的活動を促進する副作用がある」という説明をする場合と、「生理的活動を低下させる副作用がある」という説明をする場合、この二通りのパターンを用意する。それぞれ、どのような結果が出るだろうか、という実験である。

一般的に理解されている偽薬効果(プラセボ効果)を元に考えると、「生理的活動を低下させる(リラックスする)副作用がある」と説明されている方が、眠りやすくなるように思われる。ところが、結果は逆で、「生理的活動を促進する(興奮する)副作用がある」と説明されている方が、不眠症が改善されるのだ。なぜか。

不眠症の人は、寝ようとしても生理的興奮が邪魔をして、うまく寝ることができない。ところが、興奮する副作用があると言われた薬を飲んでいる人は、その生理的興奮は薬のせいだという推測をする。その結果、元々ある不眠症の効果が薄れることになる。

逆にリラックスするという説明の薬を渡された人は、そのような薬を飲んだにもかかわらず、生理的興奮が起こるのは不眠症のせいだと、余計に不眠症を意識してしまい、むしろ眠れなくなってしまう、ということらしい。

余談だが、実際の睡眠ではなく、主観的にはどのように感じたかの調査では、リラックス~の方がよく眠れましたと回答するらしい。無意識下では逆偽薬としての効果が出ていたが、意識は通常の偽薬通りの結果が出ていたのだ。無意識と意識の間には、食い違いがあり、必ずしも意識が正しいとは限らないわけだ。

このように、なにかを知っているということそれ自体が、その人が意識してなかったとしても、心の動きに影響をおよぼす。それを少し違った形で利用していると考えてもらいたい。

最後にもう一度、重要な点だけを書く。

感じているのはただの生理現象にすぎない。そこに、なにかをしたいという気持ちは存在しない。

次回は、より具体的な使い方、そしてもう一歩踏み込んだ考え方を紹介する。

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