“America” (Simon & Garfunkel) 出だしの歌詞を解釈する

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先日、ふとした機会にSimon and Garfunkelの”America”を聴きなおす機会があった。けだし名曲であるが、改めて聴いた時、その歌詞の解釈の難しさに気付かされた。そこで今回は、ストレートにその話をしようと思う。

といっても歌詞全体ではなく、その出だし

Let us be lovers, we’ll marry our fortunes together.
I’ve got some real estate here in my bag.

“America”, Simon and Garfunkel (1968)

の部分をどう解釈するか、という話である。

公式の音源があったので、とりあえずリンクを張っておくことにしよう。

さて、念の為、最初に書いておきたいことがある。
いい歌詞というのは、大抵の場合多彩な解釈が可能になっている。それによって、聴く人それぞれが持っている世界に当てはまることが可能になり、より多くの人が、より深い共感を得られるようになり、ゆえにいい歌詞だと評価されるようになるわけだ。

というわけで、僕がこれから示す解釈も、そういう見方もあるのかな、程度に見てもらうほうがいいかもしれない。正解は存在しない、いや、あなたの中にだけあるものなのだから。

……ちなみに、結論を先にいうと、ここを正確に訳出するのは極めて難しい、というかほぼ無理というものだ。なんやねん、それ。

では、改めて。

さて、先に挙げた歌詞は、構文としては非常に単純なものだが、解釈の難しい部分が二つある。
すなわち、”fortunes”と”real estate”だ。

fortuneという単語自体は、元々は「(幸)運」とか「運命」を表す単語だ。後に、おそらくはその意味から派生して、「(大きな)財産」をも表すようになった。

となると、最初の部分は

恋人になろうよ、二人の苦楽を一緒にするんだ
恋人になろうよ、二人の財産を一緒にするんだ

と、字義的には二通りの解釈が可能になる。

とはいえ、marry a fortuneという言い回しで「財産目当ての結婚をする」という意味になったりもすることを踏まえると、ここでのfortuneは一般的な解釈としては「財産」という意味合いが強いものになるだろう。

とりあえず、fortunesについてはこれでいいとして。

問題は、”real estate”である。
これは普通に辞書を引くと「不動産」という訳がでてくる。本来的な意味としては、確固たる存在としての財産という意味合いから、動産に対する不動産、土地や建物のような不動産、というわけである。
これは前の節に登場している”fortunes”と対になる言葉だ。つまり、一緒にする財産として、”real estate”が出てきている。

……のだが、”here in my bag”と続くのが曲者である。もちろん、不動産を鞄の中に入れることはできない。土地・建物の権利書なら入るかもしれないが。

さて、ネット上にいろいろな人がここの和訳を載せてくれているのだが、ここをきちんと訳せている例はほとんどない。ここでの”real estate in my bag”とは、鞄に入っている財産や、権利書の類ではない。

実は”capacity”、つまり「空き容量」のことなのだ。

おそらくは、建物や土地→ものを置ける(建てられる)場所という連想から生まれた、一種のお遊び的な言葉だと思われる。
この用法は英英辞書でも載っていない場合があるのだが、1960~1970年代あたりに流行った言い回しらしく、現在でも使われないこともないようだ。

さて、ここで改めて、取り上げている部分を最初から見ていこう。

1) Let us be lovers
2) we’ll marry our fortunes together
3) I’ve got some real estate
4) here in my bag

1)一見極めてロマンティックな始まり方である。恋人になろうよ、とはっきりした言い方で歌い始める。

2)we’ll marry … と結婚について話し始めたかと思いきや、our fortunes together と続けて、え?財産の話だったの?というヒネリが入る。

3)不動産をいくらか持ってるんだ、というのは、2)を受け継いでの言葉だろう。この二人は、歌全体を聞くと分かるのだが、とても金持ちには見えないはずだ。それなのに不動産……?

4)かと思いきや、”here in my bag”とつづけて、さっきの”real estate”とは不動産のことではなく、鞄の空きのことだと明かされる。

これだけの展開が、実はこの二つの文には詰まっている。
つまるところ、遊び半分に話しながらじゃれているのである。が、これをきちんと訳出するのは、極めて困難だと書いた意味は、理解してもらえたのではないだろうか。

この歌には、わずか3分半に様々な「移ろい」が入れ込まれている。Pittsburgh、Michigan、Saginaw、New Jersey Turnpikeと様々な地名が出てくる中、曲中の時間もいつしか夜になり、主人公たちの心情にも変化が訪れる。

また、テーマになっている”look for America”とは、ミシガンからニューヨークへ向かう旅の景色であるとともに、一財産を築きたいという夢でもあり、そこを行き交う人々そのものでもあるのかもしれない。

タイトルこそ”America”だが、普遍的な、人の感情を揺り動かす何かを持っている名曲ではないかと思う。

さて、ここまで書いておいて和訳をまったく載せないのもひどい話かと思ったので、件の一節の私訳を載せておく。出来についてのクレームは受け付けないので、御了承いただきたい。

恋人になろうよ、結婚して財産を一緒にしよう
いくらか余裕はあるんだ、鞄なら空いてるしね

今回は、以上。

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