変なゲーム会社といえば、どこを思いつくだろうか?
僕が最初に思いつくのはデータイーストだ。
もちろん、他にも変なゲームを作る会社はいくらでもあるのだが、データイーストほど独特の雰囲気を持ったゲームを作るところは、そうはない。
それに、椎茸栽培に多額の投資を行ったゲーム会社も、他には無いだろう。もっとも、饅頭を作ってた会社はあるけど……そして今ではもう、どちらも倒産して無くなってしまった。寂しい限りだ。
そのデータイーストが1984年に出した、「イエローキャブ」というタイトルのゲームがある。タイトルの示すとおり、アメリカのタクシーをテーマとしたゲームで、ひたすら客を拾って目的地まで届ける道すがら、他の車を破壊したり、迫りくるロードローラーから逃げ回るゲームだ。すげーな、アメリカ。
さて、そのイエローキャブほどではないにせよ、破天荒なタクシーゲームが1999年、セガからリリースされている。そう、OffspringによるノリノリなBGMをバックに街を爆走する「クレイジータクシー」である。
僕はこのゲームが大好きだ。
昔、任天堂がテストプレイヤーのバイトを募集しているのを見かけ、応募したことがある。面接で「最近遊んだゲームで面白かったものはありますか?」と訊かれたのだが、「クレイジータクシーですね」と即答する程に好きだった。続けて「それと、レイディアントシルバーガンです」と言ったあと、「……御社のゼルダの伝説時のオカリナもよかったですね」と付け足した覚えがある。
面接には、落ちた。
ま、それはさておき。
クレイジータクシーで遊んだことがある人ならば、ほぼ全員あの”Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah”から始まるBGMを覚えているだろう。Offspringによる”All I Want”だ。公式のPVが上がっていたので、リンクを置いておく。
この曲が収録されているのは、”Ixnay on the Hombre”という、少し変わった名前のアルバムなのだが……ここでようやく話の枕が終わり、今回のタイトルとつながるわけである。これをどう訳すべきなのか。
まず、Hombreという単語から説明しよう。これはスペイン語で、(屈強な、強い)男という意味らしい。転じて、ここでは権力者・権威といった意味で使われている。
こちらはイタリア語由来だが、segueがseg-wayのように発音されるのに少し似て、Hombreはom-brayといった風に発音される。したがって、Ixnay on the Hombreというフレーズ全体としては、韻を踏んでいる形になる。
つぎに、Ixnayである。実は”ix”から始まる単語は、英語にはほとんど無い。英語らしくない、実に変な単語だ。僕も他にはイクサー1くらいしか思いつかない……とボケられるかと思ったが、英語では”Iczer One”と表記するらしい。むむむ。
さて、この単語は実は2つの要素からなっている。
ひとつめは、”nix”。こちらは、端的に述べると”no”を意味する単語で、ドイツ語の”nichts”(=nothing)由来である。概ね18世紀の終わり頃から使われているようで、意外と歴史のある単語ではある。
形容詞としてのnixは、nix on ~という形で、~にNOという、~を拒否するみたいな意味になる。また、20世紀に入ってからは他動詞としても使われ出しているようだ。
余談として、”Nix on Nixon”で「ニクソンに反対」という意味になる、誰でもつい考えてしまう駄洒落ができるわけだが、実際、リチャード・ニクソンに対抗するキャンペーンにおいて、何回か標語として使用されていたりする。
例えば、アメリカの芸術家Alfred Leslieは、現代抽象芸術家として知られていた若かりし頃、JFKとニクソンの接戦で知られる1960年のアメリカ大統領選挙の時に、そのものズバリ“Nix on Nixon”と題した絵画を製作していたりもする。
次に、この”nix”が、“Pig Latin”(豚のラテン語)と呼ばれる言葉遊びでひっくり返されている。Pig Latinの基本的なルールは、(あれば)最初の子音を最後に持っていき、”ay”を最後に付け加えるというものだ。
例えばpigならig-payに、Latinならatin-layとなり、そしてnixならix-nayになるというわけだ。ここでは分かりやすいように間にハイフンを挟んで表記した。
このPig Latin、1920~30年代にアメリカでかなり流行ったらしく、様々な歌や物語、宣伝などに使われていたらしい。現代でも言葉遊びとしてはポピュラーで、割と誰でも知っているようだ。
例えばジム・キャリーの出世作、映画「マスク」(The Mask)の終盤、ジム・キャリー演じる主人公スタンリー・イプキスが、愛犬の助けを借りて留置所を脱出するシーン。銃を突きつけられて協力させられるケラウェイ警部が、警察署を出る際に相棒のドイルと会話する。ケラウェイはPig Latinを用いてなんとか状況を伝えようとする。
Doyle: Where are you taking lpkiss?
The Mask (1994)
Kellaway: Ixnay! Ehay’s otgay an ungay.
Doyle: I get it. Pig Latin, right? …Eesay ouyay aterlay.
ちなみに、僕の見た日本語字幕ではこう訳されていた
ドイル: どこへ連行を?
ケラウェイ: キスイプはトルピスを
ドイル: ああ、逆さ言葉か……らっしゃい行って
映画「マスク」は、そのサイコホラーな原作とは違い、ほぼコメディ作品として演出されており、ここでもPig Latinとは気づきながらも、結局状況は全く理解しないまま見送るドイルの様子が笑えるシーンとなっている。
さて、このPig Latin、あらゆる単語を変換することが出来るわけだが、その中で2つだけ、一般に使われる表現として生き残った単語がある。それが、nixを変換した”ixnay”とscramを変換した”amscray”で、一般の辞書にも収録されている。ちなみに、amscrayは”go away”とほぼ同じ意味で、主に命令形で使用される。
以上を踏まえた上で、Ixnay on the Hombreは、「権力者・権威への反対」といった意味合いとなるわけだが、Offspringがパンクバンドであることを鑑みつつ、砕けて訳すなら「奴らにクソくらえ」とでもするべきだろうか。アルバム全体の構成からしても、最初にdisclaimerと題するおちょくりから入り、最後にkiss my ass!と締めていることを考えれば、これくらいの訳がふさわしいだろう。
今回は、思いつかなかったので特にオチはなく、以上。